水瀬佳乃 雪の離れ、障子の向こう

RETRO ONSEN CURVES / Office Curve Studio

水瀬佳乃
雪の離れ、障子の向こう

見えそうで見えない夜ほど、記憶に残る。
雪の離れ宿で過ごす、水瀬佳乃の静かな一夜。

水瀬佳乃 雪の離れ宿の入口

雪の離れ宿の入口。旅の始まりは、いつも少しだけ心細い。

雪は、音を消してしまう。

夕方を少し過ぎた奥嵯峨の道は、白く濡れていた。
水瀬佳乃は、宿の玄関先で傘についた雪を軽く払う。手袋の先は少し冷たく、石畳を歩いてきた気配が、まだ指先に残っているようだった。

水瀬佳乃 雪のバス停

帰りのバスは止まっていた。運休の札だけが、雪の中で静かに揺れている。

帰りのバスは止まっていた。
運休の札は、まるで最初からそこにあったみたいに、雪の中で静かに揺れていた。

宿の人から渡されたのは、古い木札のついた鍵。
離れへ続く小道にはうっすら雪が積もり、石灯籠の上にも白い静けさが乗っている。格子戸の向こうから漏れる灯りだけが、この夜を少しだけ現実につなぎ止めていた。

見えていないのに、そこに何かがあった気がする。
水瀬佳乃の写真は、そんな余白のためにある。

雪の離れ宿でほどける時間

水瀬佳乃 火鉢の前

火鉢の前で指先を温める。部屋の静けさが、少しずつ身体に戻ってくる。

部屋に入ると、畳の匂いがした。
障子、火鉢、座卓、雪見窓。外は白く、部屋の中だけが少しだけ暖かい。

佳乃はコートを脱ぎ、畳の上にそっと膝をつく。火鉢の前で手を温めると、冷えていた指先がゆっくりと戻ってくる。窓の向こうでは、雪がまだ静かに降っていた。

水瀬佳乃 湯呑みと京菓子
座卓に残された湯呑みと京菓子。小物だけで、一夜の入口が見えてくる。
水瀬佳乃 浴衣と足袋
浴衣、帯、足袋。夜の気配は、人物より先に小物へ宿る。

座卓には湯呑みと小さな菓子。
浴衣、帯、足袋、手ぬぐい。
どれも、夜の準備のように静かに並んでいる。

鏡の前で浴衣を肩に当て、少し照れたように笑って、すぐに目を伏せる。足袋を脱ぐ指先、帯を持つ手元、裾を整える仕草。そうした小さな場面ほど、あとから妙に記憶に残る。

水瀬佳乃 鏡越しに浴衣を整える

鏡越しに浴衣を整える。近づきすぎない距離に、大人の余韻が残る。

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見えそうで見えないもの

この夜の主役は、露出ではない。
障子越しの影、半開きの襖、湯気の向こうの横顔、火鉢の前の太もも、畳に残された帯、朝の湯呑み。

水瀬佳乃 障子に映る影

障子に映るやわらかな影。見えなかったものほど、あとから思い出す。

はっきり見せないからこそ、読者の中で物語が続いていく。
それが、水瀬佳乃というキャラクターの強さなのだと思う。

大人の女性が、日常から少しだけ離れた場所で見せる静かな曲線。
近づきすぎない距離感。
何も説明しすぎない夜。

だからこそ、見えなかった部分ほど、あとから思い出す。

この先の夜へ

水瀬佳乃 湯籠を持って渡り廊下を歩く

湯籠を持って、貸切湯へ続く渡り廊下へ。雪の中庭が、夜をさらに深くする。

貸切湯へ続く渡り廊下。
雪の中庭を見る後ろ姿。
湯籠を持つ手元。
半開きの引き戸の向こうに漂う湯煙。

そこから先は、はっきりとは見えない。
けれど見えないからこそ、その時間は長く残る。

水瀬佳乃 湯上がり 火鉢の前

湯上がり、火鉢の前で膝を抱える。火照りと雪明かりが、同じ部屋にある。

湯上がりの髪をタオルで押さえながら、佳乃は火鉢の前に座る。
浴衣の裾を整え、膝を抱え、少しだけ笑う。部屋には行灯の光と、湯呑みの湯気と、閉じかけた文庫本があった。

朝に残るもの

水瀬佳乃 朝の和室

朝の和室。少し乱れた布団と湯呑みだけが、夜の名残を知っている。

朝、雪明かりが障子に差し込み、座卓には湯呑みが残る。
そして彼女は、何も言わずに微笑む。
見えなかった夜ほど、記憶に残る。

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