OCS KNOWLEDGE NODE 08 / WORK SYSTEM
徒人と船人の違い
鳥羽・志摩の海女漁には、カチド、フナド、ノリアイという三つの代表的な操業形態があります。違うのは「どこから海へ入るか」だけではありません。船、トマエ、命綱、漁場の深さ、浮上方法、そして一回の潜水で身体が担う仕事まで変わります。

10-SECOND ANSWER
カチド=自分で行く。フナド=トマエと二人で深場へ。ノリアイ=船で複数人が漁場へ移動し、各自で潜る。
文化財資料では、カチドは陸から泳いで漁をする形、フナドは男女のペアなどが船で出て、海女を船上のトマエが滑車や綱で引き上げる共同作業、ノリアイは一隻の船に船頭と複数の海女が乗り合わせ、目的の漁場でそれぞれが単独で潜る形として整理されています。
THREE SYSTEMS
三つの違いを、一枚で見る。
| 形態 | 海への移動 | 潜水・浮上 | 船上の人 | 漁場 |
|---|---|---|---|---|
| カチド / 徒人 | 陸から泳ぐ、または地域によって船で漁場付近まで運ばれる例もある | 基本的に自力で潜降・浮上 | 必須ではない | 磯場に近い比較的浅い海域が中心 |
| フナド / 船人 | 海女とトマエが船で漁場へ | 重りで潜降し、命綱・滑車などで浮上を助ける | トマエが重要 | 10m以上の深場へ入る例 |
| ノリアイ / 乗合 | 船頭+複数の海女が一隻に乗る | 漁場到着後は各海女がそれぞれ潜る | 船頭が移動を担う | 岸から離れた共同の漁場へ移動できる |
KACHIDO / BODY
徒人 — 自分で潜り、自分で戻る。
三重大学海女研究センターは、徒人を自力で潜水と浮上を行い、磯場に近い水深5〜8m程度を主な活動範囲とする形として説明しています。磯桶やタンポなどの浮具を海面の拠点にし、潜る、採る、上がる、息を戻すという一周期を自分の身体で完結させます。
ただし現地調査では「カチドだが船に乗せてもらう」「カチド(乗り合い)」のような回答もあります。つまり分類名と実際の移動方法が地域ごとに完全一致するとは限りません。OCSでは名称だけで画面を決めず、その地区・年代の操業記録を優先します。
FUNADO / PAIR WORK
船人 — 一人の潜水を、二人の仕事で成立させる。
フナドでは、海女一人に対し、船上で命綱を扱う「トマエ」が組むのが代表的です。海女は重りを利用して海底へ入り、採取後に合図を送り、トマエが綱や滑車を使って浮上を助けます。潜っているのは海女一人でも、仕事全体は二人の連携です。
この形では、海女の身体は海底での探索と採取に集中できる一方、船上側には綱の管理、海女の位置把握、合図への反応、浮上の補助という別の身体仕事があります。
NORIAI / SHARED BOAT
ノリアイ — 船は共同、潜水は個人。
ノリアイでは、一隻の船に船頭と複数の海女が乗り、目的の漁場まで移動します。漁場へ着くと、各海女はそれぞれ潜水して仕事をします。フナドのように海女一人とトマエ一人が命綱で一組になる形とは違います。
1972年の安乗を考える上では、この「共同で船へ乗る → 海へ散る → また船へ戻る」という仕事のリズムが重要です。OCSには乗合船の既存Nodeがあり、港・船・海女小屋を一つの生活圏として追えます。
DEPTH / WORK SYSTEM
深さが変わると、必要な仕事システムも変わる。
浅い磯場なら自力潜水を何度も繰り返しやすい。深場へ行けば、海底までの移動時間と浮上負荷が増えます。そこで重り、命綱、船、トマエの連携が意味を持ちます。つまりカチドとフナドの違いは、単なる交通手段ではなく、深さに対して身体と道具をどう組み合わせるかという設計の違いです。
TERMS / REGIONAL VARIATION
名前の境界は、現場では少し揺れる。
三重県の海女習俗調査では、カチド、フナド、ノリアイのほか、「ノリコ」「カチド(乗り合い)」「船乗りで行くカチド」など地域語を含む回答があります。したがって、文化財上の三分類は全体像を理解する強い入口ですが、個々の地区を再構成するときは現地呼称と具体的な操業内容を優先します。
1972 ANORI / WEIGHT QUESTION
安乗では「船に乗る=ウェイトで潜る」ではない。
三重大学海女研究センターの1972年8月24日の安乗記録には、磯着を着た9人のノリアイ海女が一隻の船へ乗り込む写真が残っています。別の海中写真では、白い磯着、磯メガネ、素足のノリアイ海女が海底へ向かい、海上の浮樽と身体を樽綱でつないで操業する姿が確認できます。
一方、同じ1972年8月24日の安乗資料には「安乗舟人海女」の船上風景も記録され、艫にはトマエが写っています。つまり同じ安乗、同じ日でも操業形態は一つではありません。安乗の海女を一括して「全員ウェイトなし」「全員舟人」とするのは正確ではありません。
OCSでは、ノリアイを再構成する場合、フナド型の「重りで潜降し、トマエが命綱で引き上げる一対一のシステム」と混同しません。船は共同の移動手段、潜水は各海女が担う仕事として描きます。
三重大学 海女研究センター:1972年安乗・ノリアイ記録 →
三重大学 海女研究センター:1972年安乗・舟人海女記録 →
FAQ
よくある疑問
船に乗る海女は全部フナド?
いいえ。ノリアイでは船頭と複数の海女が一隻に乗って漁場へ移動し、到着後は各海女がそれぞれ潜ります。地域によってはカチドが船で漁場近くまで運ばれる例もあります。
安乗の海女はウェイトを付けていた?
一括にはできません。1972年の安乗にはノリアイ海女と舟人海女の両方が記録されています。舟人では重り・命綱・トマエを組み合わせる潜水がありますが、ノリアイは複数の海女が船で漁場へ移動し、それぞれ潜る別の操業形態です。「安乗の海女=全員ウェイト使用」と考えるのは誤りです。
トマエは何をする?
フナドで船上から命綱などを扱い、海女の浮上を助ける役割です。夫婦などのペアで行う例が代表的です。
ノリアイでは船頭が海女を引き上げる?
文化財資料上の基本形では、船頭と複数の海女が漁場まで乗り合わせ、各海女がそれぞれ潜ります。フナドのトマエとの一対一連携とは異なります。
安乗はどの形?
少なくとも1972年8月24日の記録にはノリアイと舟人の双方が確認できます。したがって、年代・漁場・操業形態を分けて見る必要があります。OCSの1972 ANORI WORLDでは、記録写真に残るノリアイの仕事世界を主要な参照の一つとして再構成しています。
SOURCES
主な参照資料
NEXT NODE
では、安乗の海女はどんな仕事世界にいた?
次は「安乗の海女とは?」。港、乗合船、海女小屋、白い磯着、漁期まで、1972年のANORI WORLDへ入る。
AMA KNOWLEDGE MAP / 01–20
海女を、別の入口から辿る。
01 海女とは? / 02 歴史 / 03 道具 / 04 服装 / 05 潜り方 / 06 潜水時間 / 07 採るもの / 08 徒人・船人・ノリアイ / 09 安乗の海女 / 10 ウェットスーツ / 11 海女小屋 / 12 磯メガネ / 13 磯笛 / 14 カギノミ / 15 白い磯着 / 16 仕事着20年 / 17 船・港20年 / 18 道具20年 / 19 海女小屋20年 / 20 身体・世代20年
